外科系
2026/01/13 2026/01/17

CASE69:大腸癌に対する低位前方切除術後から2日目に縫合不全に陥り、3日目に再手術を行うも、5日目に敗血症性ショックなどで死亡した事例(一審敗訴後二審逆転勝訴・判決確定)

 Aさんは54歳の男性です。健康診断で大腸癌の疑いが指摘され、B大学病院での精密検査及び加療を勧められました。

 B病院での精密検査で、直腸に粘膜内癌とS字結腸に粘膜下層癌が発見され、低位前方切除術(切除後の吻合部が腹膜反転部より下になる術式)が行われました。

 手術から2日目の夜、吻合部後面に留置したドレーンからの便汁様排液と、39℃台の発熱を認め、翌朝にいたって、圧痛、反跳疼痛、均整防御などの腹膜刺激症状が明らかになったことから、再手術が決定されました。

 術後3日目の朝、再手術が開始されました。9時間近くにわたるこの再手術中に、Aさんは循環不全に陥り、小腸の浮腫から閉腹も困難な状況に陥りました。再手術終了後も、Aさんは人工呼吸管理から離脱できないまま、初回手術から5日目に死亡しました。死亡診断書による直接死因は、敗血症性ショック、腹膜炎、直腸癌手術後縫合不全と記載されています。

 縫合不全は外科手術一般において重大な合併症ですが、直腸癌の低位前方切除術では約10〜15%という高頻度で起こるとされています。

 吻合部は、手術直後においては、縫合糸あるいはステープルなどによる物理的な力で接合しています。この物理的接合力は時間の経過とともに減弱していきますが、一方で、吻合部の癒着による生化学的な接合力が強まっていきます。生化学的接合力が物理的接合力を逆転して上回るのは術後4日目頃とされています。

 吻合部の過度の緊張によって血行が不十分だったり、吻合部に感染が起きたりすると、生化学的な接合が遅れてます。物理的接合力の減弱を、生化学的接合力がカバーできないことによって、縫合不全が発生します。このような機予による縫合不全は、術後1週間程度が好発時期です。糖尿病、低蛋白血症などの全身状態も、生化学的接合に影響し、縫合不全のリスクファクターです。

 しかし、それ以前の問題として、縫合が不十分で、物理的な接合が成立していない場合には、術後早期に縫合不全が起こることになります。

 本件のように、術後2日目に起こった縫合不全は、縫合手技(ステープルによる機械吻合でした)に何らかの問題があったことを示唆するものといえます。

 低位前方切除術で縫合不全が起こると、腹腔内に便汁が漏れ、腹腔内を汚染することになります。これに対する治療法としては、ドレナージによる保存的治療と、再手術があります。術後1週間前後に起こる縫合不全の場合には、漏れる量も少なく(マイナーリーク)、ドレナージが効いている限りは保存的にみてよいとされています。これに対して、術後1〜2日で起こる縫合不全は、漏れる量も多く(メジャーリーク)、再手術が必要になるのが一般です。

 遺族は、縫合不全を起こした手技上の過失、再手術が遅れた過失などを主張して、B大学病院を訴えましたが、一審判決は、原告側の全面敗訴となりました。

 控訴審では、鑑定が実施されました。

 鑑定は、「本件のように術後2日目に縫合不全が発生した場合、一般的には吻合上の問題が原因として推測しやすい」としつつも、「人間が行う手術手技である以上、吻合手技上のトラブルを皆無にすることは不可能である。したがって、吻合上のトラブルや不適切な手技があったとしても、また仮になかったとしても、その後の処置が最も重要」であると指摘しました。

 遺族側が最も重視していた再手術の時期が遅れた過失については、鑑定人は、B病院が再手術を決定した時期は概ね妥当と評価しました。鑑定人も、術後2日目の縫合不全である以上、メジャーリークとして再手術を要するのが原則であることは認めているのですが、再手術の時期は、ドレナージが効いているかどうかによって変わってくるのであり、腹膜刺激症状によって腹膜炎が診断できた時点で再手術を決定しても、遅いとはいえないというのが結論でした。いずれにせよ再手術が必要なのであれば、早いに越したことはないという遺族側の主張は容れられませんでした。

 鑑定人が、B病院の過失であると断じたのは、再手術の術式選択でした。

 

 このような場合の再手術は、横行結腸にループ式人工肛門を設置するだけでいいのであり約2時間もあれば終わる手術である、わざわざ、縫合不全部位を検索してそこを再吻合するという手技は全く必要ない、腹膜炎でプレショック状態にあったAさんに対して、9時間近くもかけて再手術を行ったB病院の考えはまったく理解しがたい、というのが鑑定人の見解でした。

 つまり、B病院が再手術を決定した時点では、Aさんは、縫合不全で腹膜炎をきたしてはいたけれども、適切な処置を講ずれば亡くなるような容態ではなかったということのようです。だから、再手術の時期が遅れたということではなく、むしろ、その再手術において、不必要な侵襲を加えたことがAさんの直接的な死亡原因だということです。

 この鑑定書は、医療事故情報センターの鑑定書集16巻に収録されています。

 控訴審判決(福岡高裁宮崎支部平成15年1月31日)も、この再手術の術式選択の過失を認め、遺族側の逆転勝訴となりました。

 病院側はこの判決に上告せず、確定しています。

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